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メタボリックドミノの考え方

 「メタボリックドミノ」という考え方が注目されています。肥満がもとで高血圧、脂質異常、さらに糖尿病がバタバタと、まるでドミノのように連鎖的に起こり、ついには脳卒中や心筋梗塞(こうそく)、透析などに至ります。しかし、メタボリックシンドロームの診断基準は予防を重視し、かなり軽症の段階から設定しており、早いうちに生活習慣を是正すれば健康体へのリグレッション(回帰)も大いに可能というわけです。メタボリックドミノの提唱者で腎臓内分泌代謝学の専門家である慶応義塾大学医学部内科学の伊藤裕教授は、思い切った、持続できるカロリー摂取の低減を勧めています。


メタボリックドミノの考え方について 
 昔は、食塩の取り過ぎや遺伝性の高血圧、あるいはやせ形の糖尿病の人もかなりいましたが、最近は、いわゆるメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)、つまり生活習慣による肥満が原因で血圧、血糖、高脂血症(脂質異常)などのリスクが重積し、こうした症状を起こすケースが多いことがわかってきました。最終的には、心筋梗塞や脳卒中など脳・心血管の合併症が起こってくることが怖いのですが、ここまでに至る症状にも順番があって、その点を「ドミノ」という流れ、連鎖反応を示す言葉で表しました。メタボリックドミノという考えから、「私はもうこの辺りだから気をつけなければ」というような意識を皆、一様に持ってもらいたいと考えたわけです。

健康は取り戻せるのですか

 軽い症状の人でもすべてメタボリックの範疇に入れて恐れさせようという意図はまったくありません。そういう状況の人では、早くから病識を持ち、肥満さえ解消されれば病気にならずに済む、あるいはいったん病気になったものが良くなることもあります。実際ドミノ倒しのように、1回倒れたら元に戻れないのでなく、ある程度の段階なら十分回復が可能なことがわかってきています。むしろ心血管合併症に対する予防的な観点でドミノ理論の流れを知っておいてほしいのです。

図では、中盤より少し前に、高血圧、高脂血症、食後高血糖などのリスクが並んでいますね

 いずれも同じぐらいの時期に起こってきますので、この時期がメタボリックシンドロームの始まりといえるのです。日本人の場合、恐らく高血圧症状が最も早く、ついで高脂血症、しばらくたって血糖が上がってきます。すでにこの段階で動脈硬化が起きてくることを認識しておくのが重要です。「ここまではメタボじゃないからOK」という考えでなしに、病態はあくまで連続しているとの認識が大事ですね。

糖尿病については?

 I型糖尿病のように、肥満と関係なく、やせていても糖尿病になる人がいます。このようなタイプの糖尿病で大きな問題となる網膜症や透析などの合併症が強調され、高血糖から糖尿病になる間はグレーゾーンという見方で軽視されがちでした。しかし最近は肥満も急増し肥満を原因とするメタボリックシンドローム型の糖尿病が増加しており、こうした人たちでは、高血圧なども重なることが多くなっています。従ってまだ軽いと思える段階でも実際は動脈硬化がかなり進行しており、いつ脳卒中や心筋梗塞になってもおかしくない状況になっているのです。

なぜ肥満が悪いのですか

 メタボリックシンドロームの要因について、海外では、インスリンの効きが悪くなる、「インスリン抵抗性」が重視されていましたが、内分泌の専門分野からすればインスリン分泌がすべてにかかわるとは思えない要素が多くありました。住友病院長(大阪大学名誉教授)の松澤佑次氏らの研究などで、肥満によって、脂肪細胞から出るさまざまなホルモンの分泌異常が起こることがわかってきました。

 例えば、肥満になるとなぜ高血圧になるか謎でしたが、「アンジオテンシンノーゲン」という、もともと肝臓で作られ、血圧を上げる「アンジオテンシンII」の基の物質が肥満になると、脂肪細胞から盛んに放出されてくることがわかったのです。糖尿病に関しても、アンジオテンシンIIが、インスリンの作用を抑制したり、膵臓を障害してインスリンの分泌を悪くしたりする作用があることもわかり、こうしたメタボリックシンドロームの全体の流れの中でとらえることが重要になってきたのですね。脂肪細胞からのホルモン分泌異常、つまり内分泌にかかわる病気というメタボリックシンドロームの新しい観点は、日本独自の研究成果でもあり、外国では受け入れたくない心情が残っていると思いますよ。

メタボリックの診断基準に関してはどうでしょうか

 わが国では、内臓脂肪の蓄積に基づくウエストサイズの増加を必須項目としているところが大事なことなのです。ウエストサイズは腹部の内臓脂肪と相関することがわかっており、測定するのに簡便な指標です。外国の基準では、肥満が必須項目でなく並列しているものもあり、それではほかの条件が満たされるだけでもメタボリックシンドロームになってしまうこともあります。わが国できちっと内臓脂肪蓄積を必須条件にしているところが非常に意味あることなのです。もう1つ、かなり軽症な段階のものを基準としていることも重要です。しかしながら、今回設定された基準外ならメタボではないとか、1、2センチ少ないから大丈夫といった、オール・オア・ナッシングの考え方でなくて、ある程度ウエストサイズが大きくなってしまったら、気をつけようということが重要です。

 また、適正体重を量るBMIという基準では、身長170センチなら適正体重60キログラムとなるわけですが、現在80キロだとすると、とても60キロまでは下げられません。しかし、実は例えば、5キロ減っただけでも、まず内臓脂肪から減少していきますので、メタボリックシンドロームの病態からは意味があることなのです。少しでもいいから体重を減らそうという努力が大切です。

先日、メタボで運動に励んでいた人が亡くなり、話題になりましたが

 私の想像でしかありませんが、その人は実は心臓の方もすでに悪くなっておられたのではないでしょうか。メタボリックシンドロームは、本来、動脈硬化や糖尿病の予備群であるという考え方を基本としており、すでに糖尿病を患っている人や心血管障害がかなり進んでいる人、つまりメタボリックドミノの下流にいる人では、診断も治療も違ってくると思っています。

糖尿病に関しては、さまざまな指標があるのですか

 空腹時血糖を基本にしています。通常、糖代謝の異常は、食後高血糖が一番先に変化してくるわけで、それを耐糖能の異常の診断基準にしたいところですが、なかなか評価が難しい。ブドウ糖を飲んで採血してスクリーニングするブドウ糖負荷試験も手間がかかり一般向きではありません。1、2カ月間の平均血中ブドウ糖濃度の指標である「ヘモグロビンA1c」を用いれば食後高血糖も比較的早めにとらえることができるのではないかと思っています。メタボリックは、どちらかというと、食事を取ったときに血糖が上がりやすいタイプの人に起こりやすいので、ヘモグロビンA1cの方がより鋭敏な検査になると思うのです。

腎臓の領域ではどうでしょうか

 実は今、生活習慣病などを基盤とする慢性腎臓病(CKD)が、心血管病のリスクファクターとして注目され、啓発キャンペーンも行われているのです。腎機能が6割になった人がわが国でも約2000万人いるといわれ、それはメタボリックシンドロームの予備群を入れた人数とほぼ同じです。腎臓固有の要因だけでなく高血圧や糖尿病ともからんで発症してくるわけですが、その人たちは心疾患を起こす率が普通の人の2倍以上高くなることがわかってきたのです。

メタボリックシンドロームとの関係は?

 実は、CKDの最も大きな原因はメタボリックシンドロームです。最近は、肥満そのものが腎臓を悪くすることがわかってきました。それと前述の、血圧を上げるアンジオテンシンIIが腎臓の悪化に関与しているともいわれています。腎症から透析へ移ることを阻止するだけでなく、メタボリックシンドローム対策と同様、CKDの段階で治療を始めて脳卒中や心筋梗塞の予防も図ろうというわけです。

メタボリックを軸に、医療の世界も大きく変わろうとしているのですね

 糖尿病なら糖尿病専門医、心臓病なら循環器医などと、これまでは自分の領域での治療で済みましたが、これからはそうはいきません。糖尿病と心臓病が非常に関係が深いことがようやく知られるようになってきましたが、これからはさらにメタボリックドミノの全体の流れをつかんでケアしないと、本当に患者さんのためになる治療をしていることにはならないのです。メタボリックドミノの考え方からすれば、メタボリックシンドロームもCKDも、代謝内分泌疾患と循環器疾患がミックスした全身疾患というとらえ方ができます。本当に体の中で何が起きているのか、一貫して知っておく必要があるのですね。

どうしたらメタボリックシンドロームを解消できるのでしょうか

 本質的には肥満の解消に尽きます。何を食べるかよりもまず基本的には、カロリー摂取を減らすこと。むろん血糖が上がりにくい食品を主にしてバランスよい食事ができればそれにこしたことはありませんが、栄養学的にまだ何が体にとっていいものなのかというしっかりしたエビデンス(科学的証拠)がなく、また栄養過多の現状では、カロリーの絶対量を少なくすることが基本になってくると思います。減量に関しては、食事7割、運動3割の寄与であり、やはり食事のケアが重要です。お昼、外食で脂っこいものを食べずに、副食をつけず、おにぎり1個で済ますこともありですね。

                   ◇

【プロフィル】伊藤裕

 いとう・ひろし 京都大学医学部卒業、博士号取得。米国ハーバード、スタンフォード大学で博士研究員。京都大学大学院臨床病態医科学講座助教授を経て平成18年、慶応義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科教授。第5回日本心血管内分泌代謝学会・高峰譲吉研究奨励賞など受賞。日本内分泌学会理事など多数。

産経新聞 2007年10月30日記事より抜粋

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2007年12月05日 09:43に投稿されたエントリーのページです。

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